PAPA pa pa pa

パパが6カ月の育児休業をとって知れたこと

大人が子供にできること ~先生がくれたあの瞬間~ 後編

 

晴れない空

 

思えば、ずっとつまらない顔をしてたのは私でした。

 

練習中も、先輩の話を聞く時も、普段廊下ですれ違う時も。

 

そんな後輩をよく思う人間なんているはずないのです。ましてや血気盛んな中学生なのだから。

 

 重たい空の下、重苦しい雰囲気の中で、チームはボールを追いました。

作戦なんて大そうなものはなく、ただ全力で走って相手にぶつかり、個人技とクリアパスで、とにかく前へ前へボールを運んでいました。スタイルなんて概念は無い、ただのがむしゃらサッカーでした。

 

スコアは覚えていないけれど、あの得点シーンだけが頭にこびりついています。

 

さとしの打った鋭いシュートを相手キーパーが弾き、こぼれたボールを私がスライディングで押し込みました。「やった!!」と思いました。

 

しかし、その喜びは純粋に得点を決めたことではありませんでした。

「これで先輩達が褒めてくれる」と思ったのです。

 

こころの奥ではもう先輩との関係に疲れ、なびいてしまいたかったのです。この得点をきっかけに関係が修復できる、そう思いました。孤独は、もう十分でした。

 

しかし、表情が高揚する私に向かって、先輩が放った言葉は

 

「さとしナイッシュー!

 

  …やま!今のはさとしの得点だよ!お前ももっと撃って行かなきゃダメだよ!」

 

 

 

ついに、

時間が止まりました。

 

 

 

もう無理…

 

 曇り空に光の割れ目が見えることはなく、しとしとと雨が降り出すような感情が、私の表情を固めていきます。

 

自分はなんでここに立っているのか。得点を決めても喜ばれないなら、もう何をしても認めてもらえないじゃないか。

 

そもそも、俺が全力で走り込んでなければ、得点は入らなかったんだぞ…

 

声を掛け合ってチームを盛り上げようとする先輩達と、私の気持ちを察して複雑な表情を浮かべる同級生達。

 

こんなバラバラなチーム、強くなるわけがない

 

「なんで…」

涙と一緒に漏れた言葉には、怒りが滲みます。

 

もう、嫌だ…

センターサークルに戻る気力も失せてしまいそうな、 

 

次の瞬間

 

 

「やまぁぁぁーっ、ナイスシュートだぁぁ!

 

    そういうプレイが1番価値があるんだぁぁ!」

 

 

 

広いグラウンドに響き渡ったのは、空間を震わせるような、先生の叫び声でした。

 

 

 

あの瞬間があったからこそ

 

世間で自己肯定感が謳われるようになって久しくなります。

 

自分に自信を持って生きて行く、それがなかなか難しい時代だったからこそ、これからの世代には大切な要素である事は間違いありません。

 

私は現在のところ、自己肯定感の欠如を感じてはいません。自信満々とは行きませんが、これまでの36年間で経験した浮き沈みが、今の私を肯定してくれていると思ってます。

 

誰にでも訪れる人生の浮き沈みを乗り越えて来れたのは、紛れもなく周囲で支えてくれた人達です。

 

私には、自分を肯定できた瞬間で、とても強く印象に残っている記憶があります。

 

それが、先生から叫びかけて貰ったあの瞬間です。

 

心がすーっと晴れていく感覚、分かってくれてる人がいる安心感、先輩の気まずそうな顔。あの瞬間はきっと一生心に残り続けるでしょう。

 

大人が子供たちに出来ることは何でしょうか。子供を見守るのは大人の役目ですが、単純なものじゃありません。その子がいま必要な言葉は何か。その子の心が折れそうな時を見逃さない。絶対に分かるように、聞こえるように言う。それが見守るという事だと思うのです。

 

大人の声掛けは大きい。

その励ましの言葉が、その子の中に一生残る事もあるのです。

 

あのグラウンドで響き渡った叫び声のように。

 

 

おわり

 

 

 

 

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