リライト 親としての振る舞いについて
「もう発券しちゃったから、変更は効かないんですよ~」
声色だけ明るくして、女性はそう言った。
顔を強張らせた私は、息子と一緒に彼女の言葉を聞いていた。
サッカークジのtotoは、一口100円から購入できる手軽さが魅力だ。普段は賭け事を全くしない私だが、大好きなサッカーを通じてスポーツ振興を手伝えることから、totoだけは買うのである。
「mini totoを10口1,000円分ください」
窓口の女性にそう伝えると、彼女は一瞬だけ間を置いて、「分かりました」と発券機を操作し始めた。
すぐにその作業は終わり、こちらを向き直ると女性は言った
「お待たせしました、mini toto、10口2,000円です」
しまった。久しく買っていなかったから、1口分の値段を勘違いしていたか
「あれ、1口200円でしたっけ?すいません、5口1,000円分にしてもらえますか?」
賭け事に1,000円以上は投資しないのが私のルールだ。
しかし、そんなmyルールなどお構いなしに打ち破ったのが、冒頭の言葉だった。
確かに10口と伝えたのは私だ。しかし、1,000円とも言ったのだから、その時点で確認してくれても良いではないか。
「じゃあ先に言ってくださいよ」という私に、マニュアル通り、「すいません」で応対する女性。どうやら自分に非は無いと確信しているようだ。
隣で父を見つめる息子のことを思うと、これ以上は話を大きくしたくなかった。まだ言葉も分からない息子だが、自分の父が誰かと言い合っている光景を見せたくはない。そもそも、私の落ち度が大きいのかもしれない。
抵抗は最小限にとどめ、渋々と2,000円を支払った。嫌な思いをしてまで買ったのだから、今回のクジは当たるぞ。そう自分に言い聞かせた。
それから数日後、対象の試合が全て終わった。結果を確認しようと改めてクジを眺める。あの時の熱い想いは消えていない。きっと少しは当選しているはずだと、自ら心を躍らせる。
すると、見慣れない券種名が印字されていることに気付いた。
「mini BIG」
私が買いたかったのは「mini toto」
2倍も値段が違い、商品も違う。なんと、やはりあの店員が間違えていたのだ。
そしてクジの結果は............
ハズレ
「ちくしょー!!もっと言ってやれば良かった!!」
妻に愚痴を言う醜い私を、息子は不思議そうな顔で見つめるのだった。
おわり